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日本固有の山菜「自然薯」
自然薯(じねんじょ)とは

じねんじょの生態
自生地

我が国特有の自然薯。その原産種は、本州・四国・九州の山野に自生しています。
野生の自然薯の生育状況

ジネンジョは北向の山に多く自生しています。
ウィルス病の羅病株は野生にたくさん存在します。特に、海から15キロ内に多く見られます。
一つの山全体がほとんど同一系統の品種の場合が多いようです。ウィルスの有無も同様です。
野生の自然薯の生育状況

じねんじょの生状
自然薯について

天然の自然薯の生育状況図
ジネンジョはつる性の宿根性草本です。「いも」と呼ばれる部分の上部20cm内外は堅く、一年ごとに新生交替します。

花は7~8月頃開花します。ムカゴの他に葉腋から垂れた軸に、穂状の雌花がつきます。乳白色の花被は、下位三房に三室あり、仮雄しべがあります。果は平たく横巾の広い軍配団扇形「ハナタカメン」で、緑茶褐色に熟し、丸くて薄い膜質翼のついた種子をつくります。(下図参照)
芋はその土質条件によって長さ1.5メートル内外、直径3cm内外に育ちます。首部は細長くて芋と根の中間的性質です。高温や障害物などによって、くねくね曲がる習性があり、優良種ほどこの傾向が強いようです。

芋の表皮は薄く、過湿高温の状態にあると腐敗しやすくなります。また径の小さい芋は常温で一週間おいてしまうと乾燥して、商品価値がなくなり、最後は渇死し、肉質は石膏状となります。

じねんじょの繁殖について
4種類の繁殖方法

自然薯各部の名称 雄株 雌株
自然薯の繁殖方法は4種類あります。
  1. 雌株に発生するハナタカメンの種子繁殖
  2. 地上部の茎と葉腋に発生するムカゴ繁殖
  3. 種用として地中にできる芋を分割して催芽
  4. 首部の発芽点の位置を利用する
分割繁殖(切芋種)とムカゴ繁殖(一本種)が基本的な繁殖方法です。

山野に自生している自然薯は、毎年肥大するように思われがちです。しかし、これは間違いです。
発芽を始めると親芋からの栄養を新芋に補給し前年度の旧芋は消耗して最終的にはひからびてしまいます。

新生芋は初期、親芋の栄養によって育ちますが、逐次、吸収根による自活長に移行して肥大します。
また野生の芋の中には、原種と見られる肉質が固く食用にならない芋があったり、長芋に近い雑種系のものがたくさんみられます。
山野に自生しているものを種芋として採取する場合

<注意点>
  • 畑地に近い山中のものには雑種系が多く見られます。
  • 海岸より15km以内まではヤマノイモモザイクウイルス病の羅病種が多くあります。ですから、なるべく海岸より20km以上離れた深山のもので、羅病していない優良品種母木を選定して採取しなければなりません。

<問題点>
雑種系統の芋は長芋よりは強い粘りを持ちます。しかし、自然薯としては水分を多く含み、本来の粘り、風味には到底及びません。
この雑種系統の特徴を知らずに栽培して市場に出荷すると、粘度が少なくて、悪評を受けてしまうことがあります。例えば、「山では困難な環境で育つから粘りが強いが、栽培すると劣化して粘りが足りない」等です。
また、その誤解は、自然薯自体の価値を落としてしまうことにもつながりかねません。
なお、一部の業者さんは、この雑種系統を自然薯として販売しているようです。
しかし、品種についてはやはり徹底的に吟味して栽培しましょう。

困ったことに、雑種ほど繁殖は旺盛で、催芽の際に腐りにくい性質を持ちます。逆に、良い種は、腐りやすい性質を持ちます。だから、だんだん雑種系統が増えることになります。
山に生えているから自然薯だということでなく、知識を持って採取されることを切望します。
自然薯繁殖の注意

自然薯は腐敗しやすい植物です。
また、環境の変化を嫌う性質もあります。ですから、ちょっとした管理の不注意で腐敗につながり、なかなか繁殖が難しい面があります。
特に種用にする場合、貯蔵・催芽・育苗管理の間、過湿・過乾・温度の三点が適さないと、見た目には腐敗はなくても、細胞が劣化します。これによって、栄養が充分に補給されず、新生芽が肥大しません。
各繁殖方法の詳細

自然薯 各繁殖方法の詳細
自然薯 種子の目方の違い
栽培にはBとCの2方法が良い
自然薯 ハナタカメン
A 種子繁殖(ハナタカメン)
雄雌異株の内、雌株に発生する「ハナタカメン」は、秋の黄変期を迎えて、軍配団扇形の核の中、円形の羽の中央に種子をつけます。これを翌春に播種とすると秋には2~6gになります。
更にそれを翌春に植えつければ、秋に100g内外に生育します。翌春一本種として定植し、秋にハナタカメンから3年を経て1キログラム内外に生育します。
しかし、種子からの繁殖については、不良品種との自然交配の可能性があります。したがって、通常は種子からの方法はとりません。
B ムカゴ繁殖(一本種)
自然薯には、地中の芋の生育と同時に葉腋にムカゴが多数発生します。
ムカゴは自然薯の雌、雄いずれの株にも、発生します。ムカゴは腋芽の変形したものとみられ、径1~2cm位の球状で発芽点一個をもち、これが発芽、生育して一本種として役立ちます。
ムカゴの発生はつるが垂下がった状態でよくつき、かつ遮光された形で着生し肥大します。
1g以上のムカゴを春播種し、秋には40g以上の一本種として生育させ、これを翌春定植すれば秋には収穫できます。
自然薯 切芋種
C 切芋種繁殖
一本の芋には一個の発芽点があって、そこから生育します。が、分割すれば毛細根の位置にある無数の不定芽の内、比較的首の方向に1~3個崩芽して生育します。
一本のいもを分割しても、首部と尻部では発芽の早さが違い、尻に近い程、つるは小さいが収量はあがります。

種いもを分割する際は初期生育を旺盛にするため、ある程度の種いもの重量が必要です。50g以上に分割したものを催芽して栽培しなければなりません。
クレバーパイプ使用の栽培法では、切いも種を使用するときは催芽することが条件となります。
切いも種は催芽と言う煩雑さはありますがその年に収穫でき、しかも収量も多いため一般的です。
D 首いも種繁殖
いもの発芽点があれば、種だと考えられ発芽点に10~20gの肉質をつけて栽培されることがあります。
しかし、これは誤りです。首芋種は手近に入手できることと、催芽の手間が省けるので、初歩の方が利用しやすい種と云えますが、収量があがらないので、あまりおすすめできません。
●休眠
自然薯は11月中旬頃には、いもの形成を完了して、芋は来春まで常温下で数ヶ月間の休眠に入ります。
ムカゴの場合も8~9月頃形成されたムカゴは常温では来春まで萠芽しません。
ムカゴは茎に着生したまま土中に埋めておくと発根して肥大することがありますが萠芽はみられません。
●日長反応
自然薯は長芋と同様に日長の短縮にともなって開花しムカゴをつけ芋も肥大します。
日長反応が芋に影響することは、自然薯、長芋の特徴です。

自然薯と長芋の比較
自然薯と長芋の栽培の相違点


自然薯
長芋
ハナタカメン沢山つく(雌木につく種子)まれにつくこともある
種子稔実種子であるから交配雑種が多い不稔実種子であるから品質はわからない
乾燥しやすい乾燥しぬくい
種芋腐れやすい腐れにくい
分岐芋イモ下部に多く発生するイモ上部に多く発生する
つる約13m(全長)約9m
葉柄葉を表面からみて点状に赤紫がみえる
芋成長長芋より約1ヶ月遅い自然薯より1ヶ月早い
芋長さ1.5m内外70cm内外
芋径3cm内外6cm内外
粘土強い弱い
形状良く曲がる曲がりにくい
吸収根比較的深く伸長浅根性

自然薯と長芋の栄養分析


自然薯
長芋
粘度(B型粘度計ローターW6使用)
(鳥取県農業試験場西伯分場調査)
19,500CP
7.250CP
可食率(皮をとったもの)
政田自然農園調査
94%
86%
乾物重量
30.1%
19.6%
◆粘度評価
自然薯の価格は長芋の約3倍です。この評価に味、風味などが優れている点と、薬用的価値などを加えれば、ナガイモ価格の3倍以上が自然薯価格であって然るべきです。

自然薯の効能
自然薯の大きな特色は消化のよい澱粉を含むことと、消化酵素をたくさん含んでいることです。普通のご飯は食べすぎると、後で苦しくなりますが、とろろご飯は食べ過ぎても何時のまにか胃がさっぱりしているのです。これは自然薯に含まれている澱粉の消化酵素であるアミラーゼの働きです。
自然薯の成分

栽培されることにより、成分がどのように変わるのか?野生自然薯と栽培した自然薯とを比較してみました。その結果は下表のとおりです。
自然薯栄養分析
◆カルシウムの効果
骨や歯の強化、体液を中性に保つ、抵抗力を増強、神経の安定
◆鉄分の効果
血液を造る
◆ビタミンの効果
神経痛の予防、脚気の予防、食欲の増進
漢方薬としての自然薯

強精、胃腸、動脈硬化、ガンの予防など多彩な効果があるといわれています。漢方に自然薯が要素として使用されているほか、民間療法として次の傷病にも効果があると言われています。

漢名
生薬名
薬用部
山菜
山菜、薯、唐山薬
塊根(コルク層を除き乾燥)
◆結核、乳症、ぜんそく、火傷、子ども百日咳、盗汗、肺炎、霜やけ
自然薯とろろ汁
自然薯とろろ汁
自然薯とろろ汁
自然薯いそべあげ

クレバーパイプ栽培による安定栽培
自然薯 クレバーパイプ栽培方法
自然薯は新生芋からは栄養の吸収は行なわれません。
新生芋の生長する位置に栄養があれば、そこで生長点は分裂して分岐イモになったり腐ったりして、正常なイモとなりません。
また、イモの生長点土壌病害菌などにも弱いのです。
そのため、慣行栽培はむずかしいので、圃場の肥沃な土壌に新生イモが触れない状況で育てる栽培方法をとらなければなりません。
過去には竹を割ったもの、トイ状の樹脂、波板などで長年繰り返し栽培してみましたが、その年の気候条件によって、よく出来たり全滅となったりして安定した栽培は得られませんでした。
こうした試行錯誤を繰り返すなかで、パイプ状の栽培器の中に新生イモの成長に適した土を客土し、その中に新生イモを誘導する栽培法を確立しました。こうすることによって、圃場土壌の悪条件から完全に隔離して、新生イモを育てることが可能になりました。この栽培器がクレバーパイプです。

「自然薯とナガイモの栽培法」
(昭和59年8月30日政田自然農園発行)より
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